ゆべし

ゆべしとは・・・

ゆべし(柚餅子・ユベシ・Yubeshi)は、
ゆず(・ユズ)を用いて作られる食べ物、郷土食、または郷土、和菓子のこと。地域により「ゆず」以外の材料を用いて作られるものも多い。「ゆうべし」「柚子釜」(ゆず釜)とも。柚干(ゆびし)、柚圧(ゆべし)の場合もある。

ゆべし

全国各地に、「ゆべし」または「ゆうべし」と呼ばれる、郷土食があり、その形、味わい、作り方、原材料などは多種多様。甘いものからしょっぱいもの、辛いものなどもあるほか、同じ地域内や隣接地域で、異なる見た目と味わいの「ゆべし」が存在する場合もある。

現在では、地域にもよるが関東や東北地方では「ゆべし」といえば、もち米粉、砂糖、または糖、クルミや胡麻などを用いて作られる菓子として認識されている場合も多いが、元々は柚子を用いた保存食、または携行食として作られ、食べられていたという。(北陸や長野、岐阜、関西以西では元々の「ゆべし」に近い、柚子を用いた食べ物、郷土食、保存食として認識されている場合も多い。)

ゆべし その1

柚子の上部をカットし、中身をくり抜いて、外皮を容器(柚釜)として、その中に果肉と、味噌、クルミ、山椒、ゴマ、砂糖、粉などを詰めて、最初にカットした上の部分でフタをして蒸し、和紙や藁などを巻いて風通しの良い軒下などで冬の間(春になるまでの数ヶ月ほど)吊るして寝かせて熟成、味をなじませたもの。柚子を用いた伝統的な保存食品。一説には今から1000年前後昔の源平の頃から伝わるともいわれる伝統ある食べ物で、1643年頃に出版されたを代表する料理書といわれる「料理物語」にもその作り方が掲載されている。現在でも岐阜県の恵那市や関市などで作られている郷土保存食で、薄くスライスして、酒の肴やお茶請け、味噌汁や茶粥に入れたり、ふりかけや料理の薬味などに用いられる。そのほか、奈良県の十津川村、長野県下伊那郡の天龍村や泰阜村、飯田市、和歌山県田辺市の龍神村、静岡県浜松市の山間部などの山あいの地で伝統的に作られているほか、愛媛県松山市や島根県益田市、岡山県の高梁や矢掛町、熊本県の人吉・球磨地域などでも製造されている。地域によっては、味噌は八丁味噌や麦味噌なども用いられるほか、材料として、えごま、シソ、松の実、クコの実、酒、みりん、米飴、そば、唐辛子、カツオ節なども用いられる。柚子を丸ごと一個用いて作られることから「丸柚餅子(丸ゆべし・まるゆべし)」の名があるほか、菓子としてのゆべしに対して、「珍味ゆべし」と呼ばれることもあり、メディアなどでは「珍味」「珍菓」として紹介されることもある。

ゆべし その2

完熟した柚子を丸ごと用いて、竹べらで中身をくり抜き、外皮を容器(柚釜)として、その中にもち米と、砂糖など数種の材料を配合したものを詰め、蒸籠で蒸したもの。石川県の能登半島で作られている伝統食。

蒸した後、自然乾燥、さらに再び蒸して、という行程を20〜30回ほど繰り返し、飴色になったら完成という伝統的な製法で現在も製造されているもの。ほろにがさと上品な甘さが特徴とされ、食べる際には一口大に切って、茶菓として、または酒の肴として食べる。能登の名産品。

ゆべし
能登の名産品 丸ゆべし

ゆべし その3

ゆべし粉(米を蒸してから、粉にして、さらに煎ったもの)、またはもち米粉を用い、砂糖や、水飴、醤油や味噌、クルミ、ゴマなどを加えて作られる菓子。郷土菓子として知られる。甘さの中に醤油や味噌のほのかな塩気もある菓子で、くるみや胡麻などの香りも感じられる菓子。

ゆべしゆべし 宮城

東北地方から関東地方にかけては、「ゆべし」というとこちらのゆべしである場合も多く、クルミが入ったものは「くるみゆべし(くるみ柚餅子・クルミゆべし・ゆべし)」、ゴマが入ったものは「ごまゆべし」「黒ごまゆべし」とも呼ばれる。元々は柚子が用いられていた「ゆべし」が、柚子の産地ではなかった東北地方などではいつしか柚子を使わない菓子のスタイルに変化していったものといわれる。柚子(柚子皮)が加えられたもので「柚子ゆべし」と呼ばれるものもある。また栗が入った「栗ゆべし」や、変わり種では苺が入った「イチゴゆべし」などもある。平たい見た目から、「丸柚餅子(丸ゆべし)」に対して、「平柚餅子(平ゆべし)」「平柚(ひらゆ)」とも呼ばれる。

ゆべし その4

ゆべし粉、またはもち米粉で作る「ゆべし生地」で、小豆あんなどを包み込み、蒸したもの。抹茶あんや栗入りあん、さくらあん、柚子入り餡などを包んだものもある。

ゆべし その5

中に黒蜜が入ったゆべしで「蜜ゆべし」とも呼ばれる。岩手県で親しまれているゆべし。小麦、大豆、、醤油、黒みつ、くるみなどで作られる餅菓子の一種。食べる際に蜜がこぼれてしまうことがあるため、「およごしもち」という別名もある。

ゆべし その6

中身をくりぬいた柚子の中に、味噌、落花生、ゴマ、干しぶどうなどを詰め、蒸してから、約3か月乾燥させて作られるもの。三重県津市で製造されているゆべし。伊勢ゆべし。お茶請け、酒の肴としてのほか、みじん切りにして、ご飯に振り掛けたり、お茶漬けにして食べる。

ゆべし その7

もち米粉にうるち米粉を混ぜ、水、味噌、砂糖、柚子、ショウガなどを加えて作る生地を竹の皮で包み、蒸し上げたもの。熊本県の菊池市で製造されている和菓子。郷土菓子の一つ。

ゆべし その8

餅米粉(糯米粉・餅粉)に、水飴や砂糖(グラニュー糖)などを混ぜて作る求肥餅に柚子を加えて香りをつけ表面に砂糖をまぶした菓子。和菓子の一種。丸みを帯びた形のものは「玉ゆべし」とも呼ばれる。主に石川県の能登や、岡山の高梁市などで伝統的に作られている菓子で、白味噌などを混ぜるレシピもあり、細切りにして結んだもの(結びゆべし)や、包みゆべし、切りゆべしなど、板型(棹状)や丸型のものなど、様々な種類がある。高梁のものは、江戸時代には備中松山藩の子であったといい、高梁の銘菓として地元の人々に親しまれる。

高梁のゆべし 写真提供:岡山県観光連盟

また、岡山の矢掛町には、餅粉に刻んだ柚子、味噌などを加えて竹の皮で包んでから蒸して作られる「ゆべし(矢掛柚べし)」があり、こちらも、古くからの山陽道の宿場町である矢掛の名物、銘菓として知られている。作家の武者小路実篤が気に入っていたというエピソードや、輿入れ(嫁入り)で立ち寄った際に二十数個も一度に購入したというほど天璋院篤姫に愛されたという話があるほか、江戸時代には参勤交代で立ち寄った大名なども好んで食べたと伝えられる。

ゆべし その9

柚子の皮を刻み、砂糖、醤油、水飴、塩、みりん、唐辛子、水などを加えて煮詰めたもの。生の柚子の皮のほか、茹でてから天日干しして乾燥させた柚子の皮を用いることもある。柚子の皮を調味料で煮詰めて作る保存食で、徳島の上勝町や那賀町などで作られている郷土食の一つ。そのままおかず、副菜として食べられるほか、酒の肴や、お茶漬けの具としても用いられる。

ゆべし その10

もち米粉に柚子の果汁(柚汁)、砂糖、蜜などを混ぜ合わせて作る生地を蒸した菓子。棹状をしているゆべしで、「棹ゆべし(棹柚餅子)」「棹ものゆべし(棹物柚餅子)」などとも呼ばれる。新潟県の下越中越地方(新潟市、長岡市)および、福井などにみられる「ゆべし」。蒸かしたものは「蒸しゆべし」とよばれる。新潟のモノは「越後柚餅子(越後ゆべし)」「新潟ゆべし」などとも呼ばれる。

また新潟の糸魚川には、もち米と、柚子、味噌、砂糖などを練って作られる「練りゆべし」といわれるタイプのゆべしがあり、竹の皮で包んでから蒸して乾燥させて作られる。「糸魚川ゆべし」と呼ばれるこのゆべしは300年以上の歴史を持つという食べ物・菓子で、江戸時代には加賀の前田公が江戸で徳川将軍に献上して気に入られ、前田公もいたく喜んだという逸話が残り、「御」の字をあてて「御ゆべし」と呼ぶべしと命じられたといい、糸魚川の京屋本家のゆべしは「御ゆべし」と呼ばれている。

ゆべし その11

 山形のゆべし

上新粉、またはもち粉(もち米粉)に、醤油、砂糖、くるみ、ゴマなどを加えて生地を作り、一口大の形に整え、蒸し上げたもの。主に山形でみられるゆべし。山形の郷土菓子。山形ゆべし。笹に包まれたものは「笹ゆべし」とも呼ばれる。「えびす(恵比寿)」が転訛して「ゆべし」になったとも、「指」で押して形を作ったことから「ゆべし」と呼ばれるようになったとも伝えられる郷土菓子で、そのまま食べるほか、きなこをまぶして食べることもある。スタンダードなクルミの入った「クルミゆべし」のほか、「ごまゆべし」、生地にお茶を練り込んだ「お茶ゆべし」、ヨモギを練り込んだ「草ゆべし」、こしあんを包んでシソの葉で巻いた「しそ巻きゆべし」、味噌味の「味噌ゆべし」などもある。中に小豆あんが入ったものも少なくない。山形県の村山地方では「なたまき」「なだまぎ」とも呼ばれる。

山形のゆべし山形のゆべし

ゆべし その12

 秋田のゆべし

もち粉(もち米粉)やうるち米粉に、砂糖、水などを加えてつくる餅生地を、断面が渦巻き状や花の模様などになるように巻いて形を整え蒸したもの。生地にごまやきな粉、長芋(田沢ながいも)などを加えることもある。主に秋田県内で見られる「ゆべし」で、小豆を用いた「アズキゆべし」、黒糖を用いた「黒糖ゆべし」、焼いた「焼きゆべし」などもある。秋田県内でも様々な形、見た目と味わいの「ゆべし」があり、恵比寿型などの型に流し入れて形を整えたものや角型のものもある。えびす(恵比寿)が転訛して「ゆべし」となったといわれる郷土菓子、餅菓子で、地域によっては三杯みそ、花みそなどとも呼ばれる。手で握ったような形状であることから「にぎりゆべし」とよばれるゆべしもある。

ゆべし その13

 気仙地方のゆべし

米粉(うるち粉)に、砂糖、ざらめ、醤油、クルミ、黒ゴマなどのほか、丁子、白コショウ、ニッキなどが入った独特の香りと味わいを持ったゆべし。岩手県の気仙地方で伝統的に作られ、祝い事の際の引き出物などにも用いられてきた伝統食。

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