「茹でる」と「煮る」の違い
「茹でる」と「煮る」の違い
「茹でる」と「煮る」、どちらも「焼く」「炊く」などと並んでとても使用頻度の高い調理法ですが、具体的にその違いをいざ言葉で説明するとなると、頭では区別はついていても、どう表現したらいいか、ちょっと考えてしまう人も居るかもしれません。一般的な「茹でる」と「煮る」の違いは以下の通り。
「茹でる」
「茹でる」・・・一般的には、たっぷりの沸騰したお湯で食材を加熱すること。「茹で物」ともいいます。最近ではボイル(する)とも。食材によって水から茹でる場合と、お湯が沸騰してから食材をその中に投入して茹でる場合があり、茹でる際に湯の中に塩を入れる、酢を入れる、酒を入れる、油を入れる、米糠などを入れる、もしくはそのまま(何もいれない)など、食材や目的によって茹で方にバリエーションがあります。
また、塩を入れる場合の塩分濃度(塩水の濃さ・塩の量)も、「とうもろこしやキャベツ等の野菜や根菜、豆類などを茹でる場合」の一般的な濃度の目安は1%前後、「蟹や貝類などを茹でる場合」の一般的な濃度の目安は3%~5%など、食材によって濃さ(塩を入れる量)も変わります。茹でる時間も同様に、数秒(湯搔く・湯がくともいう)~数分の場合から、数十分~1時間以上の場合など、食材や調理の目的によって変化します。(ほうれん草など、葉物野菜の場合は色味を良くするために一つまみの塩を入れて短時間でさっと茹でることもあります。)
ちなみにほうれん草などの葉物野菜、蟹などは、沸騰したお湯に入れて茹でる場合が多く、根菜類や貝類(種類によって異なる)などは水から茹でる(鍋に水を張った状態で食材を入れて加熱していく)場合が多いです。その理由としては、お湯から茹でるのは「葉物野菜は加熱することで風味が変わりやすく、色落ちもしやすいので沸騰したお湯で(比較的短時間)茹でる為」、水から茹でるのは「根菜類は煮崩れしやすいから」「中心まで加熱して火を通す為」などが挙げられます。
その他、水から茹でる場合には、「しっかりと食材に塩味をつける為」「温度差で食材が急激に縮んだり、熱が入る部分と熱が入りにくい部分で断裂した箇所から旨味などが流出するのを防ぐ為」等の理由があります。特にお米や根菜類は、でんぷんを多く含むので水から時間をかけて温度を上げながらじっくりと茹でる方が良いという訳です。一方、沸騰したお湯から茹でる場合には、「(水から温度を上げながら長時間茹でることにより)栄養素が流れでてしまうのを防ぐ為」等の理由があります。卵のように、「水から茹でるやり方」と「お湯から茹でるやり方」の両方の茹で方を用いる食材も有ります。
茹でる際の水の量に関しても、葉物野菜などはたっぷりのお湯で、根菜類の場合は煮崩れを防ぐために少し少なめの水(量が多いと対流が大きくなり中の食材が動く為)等、食材や目的によって加減されます。
「水から茹でる」「お湯から(沸騰してから)茹でる」この食材はどちらで茹でる?
(調理の目的や食材の大きさ(切り方)などによって変わる場合もあります。)
水から茹でるもの
根菜類:
ジャガイモ
サツマイモ
サトイモ
ごぼう
ダイコン
レンコン
ニンジン
カボチャ
豆類:
大豆(ダイズ・青大豆・黒豆)
ひよこ豆
いんげん豆
えんどう豆
小豆
金時豆
栗(クリ)
肉類:
(塊・大きなもの)
貝類:
(種類による)
お湯から茹でるもの
葉物野菜:
ほうれん草
春菊
小松菜
ネギ
玉ねぎ
ニラ
白菜
キャベツ
ふき
わらび
枝豆
空豆
カブ(中心部の食感を残したい場合)
アスパラガス
オクラ
インゲン
麺類:
うどん
そば
カニ
肉(薄切りの肉=しゃぶしゃぶ用など)
茹で時間(食材の加熱時間)についても、食材や目的とする調理によって変化します。例えば、葉物野菜などは数十秒~数分と短時間、蟹の場合は種類や大きさにもよりますが10分~40分くらい、落花生は30分~1時間くらいなど。
茹で時間の色々 食材の茹で時間
(普通の鍋の場合。大きさや好みの固さ、調理の目的、圧力鍋の場合など、条件と目的によっても異なります。)
ゆで玉子(半熟)6~8分
ゆで玉子(普通)10分
ゆで玉子(固ゆで)12分
ほうれん草 30秒から1分
春菊 30秒から1分
ブロッコリー 2~3分
枝豆 3~5分
空豆 2~3分
オクラ 1分30秒~2分
とうもろこし 10~12分
じゃがいも 15~20分(火を止めてさらに15分)
さつまいも 15~30分
サトイモ 8~15分
白玉(白玉団子) 4~5分(大きさによる。浮いてきてから1~2分)
ながらみ 2~3分
マテ貝 2~3分
つぶ(つぶ貝)3~5分
バイ貝 10~15分
エビ 2~4分
蟹(毛ガニ) 15~25分
蟹(ズワイガニ)15~25分
蟹(タラバガニ)20~30分
蟹(クリガニ) 10~15分
栗 30~40分
落花生 30~1時間
茹でた毛ガニ
☆「茹でた」ものは、「茹でとうもろこし」「茹で豚」「茹で落花生」「ゆで野菜」「ゆで大豆」などのように、「茹で」+「食材名」で呼ぶ場合が多い。
「煮る」
「煮る」・・・一般的には、醤油、塩または味噌などの調味料と、水、出汁、酒、みりん、砂糖などを加えた汁(煮汁、調味液、タレ)で、魚や肉、野菜などの食材を加熱調理すること。水だけ(塩を加えることもある)で煮る場合は「水煮」とも呼びます。また、塩を加えた水で煮る場合は「塩煮」ともいいます。「茹でる」よりも水分量(汁の量)は少なめなことが多い。
☆「煮た」ものは、「煮豆」「煮魚」「煮豚」などのように、「煮」+「食材名」で呼ぶほか、調味料名などを加えて「鯖の味噌煮(さば味噌煮)」「いわしの梅煮」「いわしの醤油煮」「鶏もも肉のしょうゆ煮」「こあゆ醤油煮」などと呼ぶ場合も多い。また、「イカの煮付け」「カレイの煮付け」「鶏肉と秋野菜の煮もの」「やりいかの煮物」「大根の煮物」「牛スジの煮もの」などのように「~の煮つけ」や「~の煮もの」を用いることもある。
結論
結論として、「茹でる」というのは、塩(または酢など)を入れた湯、もしくは何もいれないプレーンなお湯を沸騰させながら、その中に入れた食材を適宜加熱調理し、食材を柔らかくしたり、アク(えぐみ、臭み)や余分な脂肪分を抜いたり、食材の中心まで火を通したりすることで、「煮る」というのは、調味料と水(または出汁、酒等)で食材を調味しながら加熱調理すること、といえるでしょうか。
「茹でる」は塩を入れる場合があるものの食材を柔らかくする、食べられる状態にする、が主目的、「煮る」は食材を加熱した上で、調味をすることが主目的で、やや大まかにいえば、「加熱調理しながら味もつける」のが「煮る」、「加熱調理がメイン」で「(塩味以外の)味はあまりつけない」のが「茹でる」といえるでしょうか。例えば「さつまいも」を調理する場合、「さつまいもを茹でる」は、お湯でそのまま(もしくは塩を入れて)加熱調理、「さつまいもを煮る」は、鍋に入れたさつまいもに水と、砂糖や醤油などの調味料を加えて加熱調理といった具合。「茹でる」場合はそのまま皮も剥かない場合が多く、「煮る」場合は、適当な大きさにカットして場合によっては皮も剥いて調理する、というのも「茹でる」と「煮る」の違いかもしれません。
ただ少しややこしいのは、調味をせず(調味が目的ではなく、下煮等の食材の下処理、下準備を目的とする調理)、水や出汁と共に加熱しながら食材を調理することも「煮る(水煮)」とも表現するので、「茹でる」と境界があいまいな部分もあり、さらには「塩茹で」と「塩煮」の違いの曖昧さ(地域や家庭によって呼び名が異なる場合(塩茹でを塩煮と呼ぶ場合など)もある)等も考慮すると、「茹でる」はどちらかといえば、食材を柔らかくしたり加熱することでその食材を(美味しく)食べられるようにする調理法、「煮る」は、食材を加熱調理しながら調味もすることが多く、水分量(汁の量)は「茹でる」と比較すると少なめだが、「茹でる」と「煮る」の境界線はややあいまいな部分があり、重なっている部分もある、と表現した方がいいかもしれませんね。例えば北陸地方などでは新鮮な魚を少なめの水に塩(日本酒を足すこともある)を入れただけの汁で煮る郷土料理がありますが「魚の塩茹で(めぎすの塩茹で、等)」と呼ばれます。
料理人の方々に何人かお話を伺っても、地域差、家庭によっての差のほかに、それぞれの料理人(調理人)によっても考え方、捉え方はバリエーションがありそうです。(出身地域や修行したお店、本人の考え方などによって。)
「茹でる」と「湯がく」と「湯通し」と「茹でこぼす」
ついでながら、「湯搔く(湯がく)」「湯通し」「茹でこぼす」についても説明すると、「湯がく(湯搔く)(※)」は、短い時間熱湯で食材をさっと加熱すること(中までしっかり火を通さない場合が多い)、「湯通しする」は、湯にくぐらせる、又はザルなどに上げた食材に湯をかけること、「茹でこぼす」は食材を入れた湯を沸騰させて茹でてから、茹で汁を捨てることです。「湯がく」は食材をちょっと加熱することでしんなりと柔らかくする為、アクや臭みを取る為、「湯通し」は食材のヌメリや汚れ、アク、臭み、余計な油分・脂肪分などを取り除く為、または海藻類(ワカメ等)の色味をよくする為、「茹でこぼす」は食材から出たアクを取除き、次の調理(再び茹でる、調味する)行程につなげる為に、それぞれ行われることが多い調理法です。
※九州など西日本では、「芋をゆがく」「ニンジンをゆがく」等、「茹でる」とほぼ同義で「湯がく」という場合も多く、地域によっても意味合いが多少異なる場合があります。