なます
なますとは・・・
なます(膾・鱠・ナマス・Namasu)は、
大根やニンジンなどの野菜を細く切って三杯酢などで和えたもの。細く切った大根やニンジンを甘酢漬けにしたもの。副菜、副食、惣菜の一種。お節料理の定番の一つ。
魚介類が入るものや落花生や柿が入るものなど、地域や家庭により様々なレシピがあり、用いられる食材や味付け(調味料)などには多種多様なバリエーションがある。特にダイコンと人参で作ったものを「紅白なます(紅白膾)」とも呼び、正月料理・お節料理に欠かせない料理の一つにもなっている。
なますに用いられる食材としては、大根やニンジン、金時人参、きゅうり、かぶ、こんにゃく、れんこん、シイタケ、きくらげ、黒豆、じゃがいも、厚揚げ、油揚げ、柿、干し柿、りんご、菊の花、サケ(鮭)、サンマ(秋刀魚)、アジ(鯵)、イワシ(鰯)、サバ(鯖)、サメ(鮫)、クジラ(鯨)、ブリ(鰤)、ヒラメ(平目)、トビウオ(飛魚・アゴ)、コノシロ(鮗)、ボラ(鯔・鰡)、フナ(鮒)、コイ(鯉)、貝柱、小柱、タコ、イクラなどがあり、和えるための調味料(合わせ調味料)としては、三杯酢のほか、二杯酢、ゆず酢、すだち酢、甘酢、ゴマ酢(胡麻酢)、煎り酒酢(いり酒酢)、味噌酢(味噌なます)、寿司酢などがある。単体の調味料としては、酢、塩、砂糖、煮切り酒、煮切りみりん、白味噌、赤みそ、昆布出汁(昆布だし)などが用いられるほか、調味料と共に、白ごまや黒ゴマのいりゴマ(煎り胡麻)、練りゴマ、鷹の爪(唐辛子)、カラシ(辛子)、砕いた落花生(ピーナッツ)、くるみ、細く切った柚子の皮などを加える地域もある。特別な席や高級な旅館や料亭などでは、柚子をくりぬいて器にしたものや、柿の実をくりぬいて器にしたものに入れて供することもある。
なますの歴史
「なます」は古くからある料理の一つで、平安時代中期に編纂された辞書「和名類聚抄」にも、生の身を食べる料理としての記述がある。現在のように「酢で和えた料理」「酢を用いた料理」ではなく、生の肉や魚を細く切った料理であり、肉や魚、野菜などが入った温かい汁料理「羹(あつもの)」の対となる料理で、「うすもの」と呼ばれた料理の一つであった。「細かく切った肉や魚の身と調味料を合わせた料理」が次第に変化して、江戸時代頃には「煎り酒」で調味した料理となり、いつしか現在のような大根やニンジンといった野菜類、(地域やレシピによっては)魚介類も入り、柿などの果物類を細く切って、酢などの調味料で和えた料理となった。
広義には魚介類を酢と塩で〆た「しめさば」や「酢だこ」、コイなどの「洗い(洗膾)」、きゅうりやタコ、わかめなどを用いて二杯酢や三杯酢で和えた「酢の物」、魚介類や海藻類、野菜などを酢味噌で和えたり酢味噌をかけたりした「ぬたなます(饅膾)」「ぬた」「鉄砲和え」「てっぱい(てっぱえ)」「酢味噌和え」「泥酢和え」「泥酢がけ」なども「なます」の一種とされる。
なますの語源と漢字表記
「生の肉」を調理した料理であることから、「生(のもの)」または「生肉」を意味する「なまし・なましし」、または生のものを細く切った料理であることから「生切(なますき)」と最初に呼ばれたのがその語源といわれる。かつては肉を用いたものを「膾」、魚介類を用いたものを「鱠」「魚鱠」と書いた。現在では「膾」「鱠」のほか、「なます」の本来の意味からすると字は違うが、「生酢」「なま酢」といった表記も散見される。
色々な「なます」
地域や家庭により、各地には様々なタイプの「なます」と呼ばれる料理がある。元々の「なます」に近い姿であろう、細く(薄く)切った魚や貝類を用いる「なます」や、くるみや落花生を砕いたものを和える際に混ぜ合わせる「なます」、柿の実を細かく切って入れる「なます(柿なます・干し柿なます)」、りんごを用いた青森の郷土料理「りんごなます」、ニラを用いた秋田県横手市の郷土料理「にらなます」、菊の花が用いられる新潟や山形の郷土料理「かきあえなます・菊なます・もって菊なます」、アジを用いた「鯵なます」「アジの焼きなます」「しめアジなます(〆アジのなます)」、コノシロを用いた大分県杵築市の郷土料理「このしろなます(コノシロなますの皿ねぶり)」、ブリやアジを用いて作られる富山県魚津の郷土料理「あんじゃなます」、酢の代わりにレモンを用いた「レモンなます」、かぼすを用いた鹿児島の郷土料理「カボスなます」、黒豆をメインに用いた「黒豆なます」、「ジャガイモ」を用いた長野(北信地域)の郷土料理「いもなます(芋なます)」、イカを用いた「イカなます」、サメとネギで作られる岩手の郷土料理「さめなます」、どんこ(エゾアイナメ)を用いた岩手三陸地方(田野畑村)の郷土料理「どんこなます」、トビウオ(アゴ)を用いた石川県能登半島の郷土料理「あごなます」、フナを用いた「鮒なます(鮒膾)・鮒のなます」、鮒や小鮒の「寒鮒(寒ブナ)」を用いて作られる石川の郷土料理「そろばんなます」、ボラを用いた「ボラなます」、アユを用いた「鮎なます(鮎膾)」、鬼おろしでおろした大根おろしと酢で締めた魚で作られる茨城の郷土料理「がりがりなます」、にんじんや大根、シイタケなどを炒め煮してから作る「煮なます(煮あえ)」「焼きなます」「炒りなます」、ごぼうやニンジン、れんこん、シイタケ、油揚げなどと、根菜類やきのこなどを炒めてから作る「炒めなます」「根菜の炒めなます」、ザクロの実を入れた長崎の郷土料理(くんち料理)の一つ「ザクロなます(柘榴なます)」、大根やニンジンと鯖を酢や砂糖、醤油、酒、唐辛子で煮て作る福岡県飯塚市の郷土料理「温めなます(ぬくめなます)」、さざえを入れた神奈川の郷土料理「磯なます」、大根、人参に加え、油揚げ、ゴボウ、レンコン、コンニャクなど七種の食材を用いて作られる岡山の郷土料理「七福煮なます」、主に長崎などで食べられている郷土料理「鯨のなます(クジラのなます)」、三杯酢に鰹節を加えた土佐酢を用いて作る「土佐なます」、大根、ニンジンに油揚げ、昆布やひじきなどの海藻類や魚介類などを入れて作る富山の郷土料理「おすわい」など。
お節料理の定番のダイコンと人参だけで作るシンプルな「なます」は、赤と白のめでたい見た目(※1)から「紅白なます」「源平なます(※2)」とも呼ばれる。(野菜だけのものは「精進なます」とも。)
(※1 赤と白の色合いと共に、細長く絡まった様が、祝儀に用いられる紅白の水引にも見えるからとも。)
(※2 平氏と源氏はそれぞれ赤い旗と白い旗を用いて敵味方を区別したと伝えられ、これが「紅白」の発祥になったという。)
大根、ニンジンのほか、細切りのきゅうりなど、別の色味を加えて「三色なます」、糸昆布などを加えた「四色なます」、さらにシイタケやキクラゲ、油揚げなどを細く切ったものも加えて、「五色なます」「五目なます」、カニカマや錦糸卵などを加えて「六色なます」、鶏のささみ肉などを加え「七色なます」「七福なます」と呼ぶこともある。福井の一部地域では、薄切りのダイコンの、木端(こっぱ・かんなくずのような木の端くれ)のような見た目から「こっぱなます」とも呼ぶ。「なます」の香りづけに柚子を入れることも多いが、特に「柚子なます」と呼ぶ場合もある。また、「れんこんなます」「大根なます」「きゅうりなます」「いわしなます」など、メインとなる食材の名前を冠して呼ぶ場合や「からし」を多めに使った「からしなます」などもある。ダイコンと人参の定番食材以外の食材を加えた「なます」を「変わりなます」と呼ぶことも。
→ 柿なます
菊の花(かきのもと)を用いた新潟の郷土料理で、味付けはくるみとごま酢。ニンジン、れんこん、こんにゃく、シイタケなども入る色鮮やかな一品。
→ かきあえなます
「氷頭なます」
「なます」本来の姿に近いであろう「生の身を細かく切って用いる料理」を踏襲しているような料理。サケの「氷頭(ひず)」と呼ばれる頭の先の軟骨部分を用いた一品
→ 氷頭なます
→ 水なます
そのほかにも、アジなどの生の魚をシソや生姜などと共にたたいて作る「なめろう」に酢を加えた千葉の郷土料理「たたきなます(酢なめろう)」、魚の骨皮ごと身をたたき、大根おろし、味噌と合わせた宮城の七ヶ浜町の郷土料理「たたきなます」、酢でしめたタイやアジ、サワラ、ヒラメなどの身と「おから」(卯の花)を和えた千葉の郷土料理「卯の花なます(からなます、おからなます)」、大根おろしと焼いてほぐしたイワシなどの魚を醤油、砂糖で煮て酢を加えた宮崎県宮崎市佐土原町の郷土料理で温かいタイプのなます「湯なます」、ぬるま湯に浸してから木槌などで潰して乾燥させた「打ち豆」を用い、大根やニンジンなどと共に酢で和えた福井の郷土料理「打ち豆なます」、ささがきにした大根を用いた「ささがきなます」、アジやイワシ、サバなどを用いて生姜、シソ、にんにくなどの薬味と共に味噌を加えて調味した宮崎の郷土料理「味噌なます」、焼き魚をほぐしたものやちりめんじゃこと、チシャ(レタスの仲間の野菜)を白味噌、酢、砂糖、かぼす汁などで調味した山口の郷土料理「ちしゃなます」や、大根、ニンジンのほか厚揚げや油揚げ、さやえんどうなどを用い、すった胡麻と酢、砂糖、味噌、からしなどで調味した福井の郷土料理「長寿なます」など、日本各地に様々な見た目と味わいの「なます」がある。
なます用の市販調味料
お好み焼のソースで有名な「オタフクソース株式会社」から、あらかじめ酢に砂糖や食塩、酵母エキス、調味料などを混ぜ合わせ、簡単になますや酢の物、カルパッチョなどが作れる合わせ調味料「なますの酢」が市販されている。